日本経済に大きな衝撃が走りました。日本銀行(日銀)が長年の金融緩和策として買い入れてきた上場投資信託(ETF)の保有額が、時価ベースでついに100兆円を突破したことが明らかになりました。
2026年2月20日時点の推計では102.3兆円程度に達したとみられています。日銀は2026年1月から保有ETFの売却(処分)に踏み切りましたが、皮肉にも最近の歴史的な株価上昇によって、売却した分以上に保有資産の価値が膨れ上がる「出口の見えない」状況に陥っています。

本記事では、この未曾有の事態の背景と、投資家や日本経済に与える影響を徹底解説します。
1. 日銀ETF「102.3兆円」到達の衝撃
日銀が2010年から約13年間にわたって買い入れてきたETF。その時価が100兆円を超えたという事実は、日本の資本主義において極めて異例の事態です。
資産膨張のメカニズム
現在の残高急増は、日銀が追加で買っているからではありません。日銀は2024年3月に新規の買い入れを停止しています。
それにもかかわらず残高が膨らんでいる最大の理由は、株価の上昇にあります。
- 簿価(買った時の値段): 約37兆円
- 時価(現在の価値): 約102.3兆円
- 含み益: 約65兆円
日経平均株価が5万円を超える水準まで上昇したことで、日銀が保有するインデックス型資産の価値が爆発的に向上しました。この65兆円もの含み益は、日本の一般会計税収の半分以上に匹敵する巨額なものです。

2. 出口戦略の現実:完遂まで「100年」の衝撃
日銀は2026年1月19日から、ついにETFの売却を開始しました。しかし、そのペースは市場への影響を最小限に抑えるため、極めて慎重です。
売却ペースと資産増分の乖離
日銀が計画している売却額は、年間で0.33兆円〜0.62兆円程度とされています。
| 項目 | 内容 |
| 年間の売却計画 | 約0.6兆円(最大) |
| 現在の簿価残高 | 約37兆円 |
| 完遂までの推定期間 | 100年以上 |
ここで注目すべきは、売却額を株価上昇が上回っている点です。
2026年1月の1ヶ月間での売却実績は約53億円にとどまりましたが、その間の株価上昇による資産の時価増分は10兆円規模に達しています。「バケツで海水を汲み出す」ような作業であり、売却を進めても残高が減らないという矛盾が生じています。
3. 市場と企業への「副作用」:物言わぬ巨大株主の弊害
日銀が日本最大の株主であり続けることには、無視できない副作用があります。

コーポレートガバナンスの形骸化
日銀は公的な立場から、企業の経営に口を出すことはありません。しかし、これが「物言わぬ株主」を固定化させ、企業の緊張感を奪っているとの指摘があります。
- 経営の保守化: 買収リスクが低減される一方で、資本効率(ROE)の改善が遅れる可能性。
- 価格形成の歪み: 業績に関わらず一律に買い支えるため、市場の選別機能が弱まる。
流動性の低下
発行済み株式の相当数が日銀に「塩漬け」されている状態のため、市場に出回る浮動株が減少しています。これは、少ない注文で価格が大きく動いてしまうボラティリティの増幅を招く要因となります。
4. 日銀の財務リスクと「配当金」の役割
一見、含み益が65兆円もあるなら日銀は安泰に見えますが、リスクも隣り合わせです。
利上げ局面での収益源
現在、日銀は金利を引き上げる方向に舵を切っています。民間銀行から預かっている当座預金に利息を払う必要があるため、日銀のコストは増大します。
そこで、保有ETFから得られる年間1〜2兆円規模の配当金が、日銀の収益を下支えする重要な財源となっているのです。これが「早期に売却したくない」という本音に繋がっているとの見方もあります。
株価暴落時のリスク
現在は「資産膨張」が課題ですが、仮に世界的な金融ショック等で株価が30%下落すれば、30兆円規模の価値が消失します。簿価が低いためすぐには債務超過になりませんが、中央銀行としての信認に心理的なダメージを与えるリスクは拭えません。
5. まとめ:求められる「創造的な出口」
2026年、日銀はETF売却という歴史的な一歩を踏み出しましたが、その道のりはあまりに遠いのが現状です。

市場での単純売却だけでは100年以上かかるため、今後は以下のようなアイデアが議論される可能性があります。
- 個人への割引販売: NISA枠などを活用し、国民に資産を還元する。
- 政府系ファンドへの移管: GPIFなど、より長期運用に適した組織へ移す。
- 自社株買いの受け皿: 企業自身に日銀保有分を買い取ってもらう。
投資家へのアドバイス
日銀の売却は「ステルス(隠密)」で行われており、直ちに暴落を招くものではありません。しかし、日銀が「日本最大のクジラ」として市場を歪めているという構造的リスクは、中長期的な視点で常に意識しておくべきでしょう。
執筆協力・データ参照
- 日本銀行「営業毎旬報告」
- 金融政策決定会合 議事要旨
- 日本経済新聞(2026年2月22日報道)