2026年2月20日、サロンパスで知られる大手製薬メーカーの 久光製薬 は、経営陣による自社買収(MBO)を目的とした株式公開買い付け(TOB)が成立したと発表しました。
買収総額は約 3,900億円 にのぼり、国内製薬業界では過去最大級の非公開化案件となります。本記事では、なぜ久光製薬が市場からの撤退を選んだのか、その背景と今後の戦略、そして株主への影響について詳しく解説します。

1. 久光製薬MBO(非公開化)の概要と結果
今回のMBOは、創業家出身の中冨一栄社長が代表を務める資産管理会社 タイヨー興産 が主体となって実施されました。
TOBの結果とスケジュール
- 買付価格: 1株につき 6,082円
- 買付期間: 2026年1月7日 〜 2月19日
- 成立状況: 買い付け予定数の下限を上回る応募があり、無事に成立。
- 上場廃止予定: 2026年 5月 目途(4月の臨時株主総会を経て手続き完了)

久光製薬は今後、東京証券取引所プライム市場、名古屋証券取引所、福岡証券取引所のすべてで上場廃止となる見込みです。
2. なぜ「今」上場廃止なのか?3つの戦略的理由
日本を代表する優良企業である久光製薬が、あえて「非公開化」を選択した背景には、製薬業界特有の構造的課題があります。
① 短期的な株価評価からの脱却
製薬ビジネス、特に新薬や経皮吸収技術(TDDS)の開発には10年以上の歳月と巨額の投資が必要です。上場を維持していると、四半期ごとの決算で利益を出すことが求められ、長期的な研究開発費の増大が株価の下落を招くリスクがありました。非公開化により、目先の利益に左右されない大胆な投資 が可能になります。
② アクティビスト(物言う株主)対策
近年、PBR(株価純資産倍率)が低い企業や現預金を豊富に持つ企業に対し、外部株主から増配や自社株買いを迫る圧力が高まっています。久光製薬は極めて強固な財務体質を持つため、外部からの介入を防ぎ、創業家主導の迅速な意思決定 を守る狙いがあったと考えられます。
③ グローバル展開の加速
「サロンパス」の海外売上比率は50%に迫っています。今後は北米やアジア市場でのM&Aやブランド投資を加速させる必要があり、リスクの高い投資判断を機動的に行うために、所有と経営の一致 を図る決断を下しました。
3. 製薬業界で相次ぐMBO。大正製薬との共通点
2024年の 大正製薬ホールディングス による約7,100億円のMBOに続き、久光製薬の事例は業界に大きな衝撃を与えました。
| 共通点 | 内容 |
| 創業家ガバナンス | 創業家が経営の主導権を握り、企業のDNAを維持しようとする動き。 |
| 強力なブランド力 | 「サロンパス」や「リポビタンD」など、圧倒的な認知度を持つ。 |
| 潤沢な資金力 | 借入金(LBO)を返済できるだけのキャッシュフローと資産がある。 |
国内市場の薬価改定やジェネリックの普及により、既存のビジネスモデルが転換期を迎える中、「上場維持のメリット(資金調達)よりもデメリット(開示コストや短期圧力)が上回った」 という判断が広がっています。

4. 既存株主への影響:スクイーズアウトの手続き
TOBに応募しなかった株主の皆様の株式は、今後 スクイーズアウト という法的倒続きによって強制的に買い取られることになります。
- 今後の流れ: 2026年4月に開催予定の臨時株主総会にて、株式併合が議決されます。
- 対価の支払い: 最終的にはTOB価格と同じ 6,082円 前後が金銭で交付されますが、支払いまでには数ヶ月の時間を要する場合があるため、早めの確認が推奨されます。
5. 結論:「サロンパス」は世界ブランドへ
久光製薬の上場廃止は、決して「衰退」ではなく、グローバル企業へと進化するための 攻めの撤退 と言えます。
非公開化後は、180年以上の歴史で培った貼付剤技術を武器に、がん性疼痛管理や中枢神経系疾患など、より高度な医療領域への挑戦が期待されています。株式市場からは姿を消しますが、私たちの生活に欠かせない「サロンパス」の進化は、今後さらに加速していくでしょう。
執筆協力:経済アナリスト・製薬業界担当
本記事は、公開されたプレスリリースおよび財務データに基づき、最新の市場動向を分析したものです。投資判断は自己責任でお願いいたします。