経済

脱中国レアアース調達網の最前線!日本企業が東南アジアへシフトする背景と地政学的リスク

2026年5月20日

近年、日本の製造業やハイテク産業を揺るがす大きな地政学的変化が起きています。それは、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)、燃料電池、防衛産業などに不可欠な「レアアース(希土類)」の調達網をめぐる覇権争いです。

中国が世界の分離・精製シェアの約9割を握るなか、日本企業は特定の供給国に依存しない「自律的なサプライチェーン」の再構築を急いでいます。その最有力候補として照準が合わされているのが東南アジアです。

本記事では、中国による最新の対日輸出規制の動向から、住友金属鉱山や双日といった日本大手の具体的な防衛戦略、そして東南アジアシフトに潜む現地特有のESGリスクや代替技術の現状までを徹底解説します。

中国の対日輸出規制と高まる地政学的リスク

日本の産業界が脱中国を急ぐ最大の引き金となったのが、中国政府による矢継ぎ早の規制強化です。

緊迫化する中国の両用品輸出管理

202616日、中国商務部は日本を事実上の標的とした「日本に対する両用(デュアルユース)品目の輸出管理を強化することに関する公告」を発表し、即日施行しました。この措置により、日本の軍事ユーザーや軍事用途、さらには軍事力向上に寄与すると判定された一切の取引先に対して、すべての両用品目の輸出が全面的に禁止されることとなりました。

さらに、これに先立つ2025年にも、中重希土類や加工設備、関連技術の輸出管理規制が相次いで導入されています。米中首脳会談(釜山)に伴い、一部の管理措置は20261110日まで暫定的に停止されているものの、ライセンス制度の枠組みそのものは維持されており、将来的な再施行や規制の恣意的変更といったリスクは依然として残存しています。

日本政府による迅速な経済安保対策

この深刻な地政学的リスクに対し、日本政府も強力な政策介入に踏み切りました。

閣議決定に基づき、2025年度補正予算の予備費から390億円を「重要鉱物供給源多角化のための出資事業」として確保。独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じて、民間企業の鉱山開発や製錬プロジェクトへの共同出資を行うことで、国を挙げたサプライチェーンの強靭化を後押ししています。

東南アジアシフトをリードする日本企業の実践策

中国依存からの脱却を目指し、日本の資源大手・商社はすでに東南アジア各国でのプロジェクトを具体化させています。ここでは、代表的な2つのアプローチを紹介します。

住友金属鉱山:フィリピン産ニッケルの副産物からスカンジウムを増産

住友金属鉱山(以下、住友鉱)は、ニッケル製錬のプロセスを高度化させることで、燃料電池向けレアアースであるスカンジウムSc)の安定調達網を築いています。

  • 画期的な回収プロセスの確立住友鉱は、フィリピンのパラワン島(CBNC)やミンダナオ島(THPAL)において、低品位ニッケル鉱から有価金属を回収する「高圧硫酸浸出法(HPAL)」を世界に先駆けて商業化しました。このプロセスの副産物から、効率的にスカンジウムを回収する独自技術を自社の新居浜研究所で確立。約40億円を投じて中間品製造プラントや最終精製プラント(播磨事業所)を建設しました。
  • 生産能力を2割増強へ同社はこれまで年間約7.5トンの生産体制を敷き、米国の燃料電池メーカーなどに供給してきましたが、足元では設備のデボトルネッキング(障壁除去)を推進し、生産能力を従来の2割増へと引き上げる増産体制を整えています。これにより、中国製原料を全く介さない燃料電池向けレアアース供給網が強固なものになります。

双日:豪ライナス社とタッグを組みベトナムやマレーシアで共同開発

双日は、オーストラリアの資源大手ライナス・レアアース社(以下、ライナス社)との長年にわたる強固なパートナーシップをベースに、中重希土類の調達ルートを多角化しています。

  • 非中国産重希土類の初輸入を達成双日はJOGMECと共同設立した「日豪レアアース(JARE)」を通じた支援のもと、20233月にネオジム磁石の耐熱性を高める重希土類「ジスプロシウムDy)」および「テルビウムTb)」の日本向け供給を確保。20251030日には、豪マウント・ウェルド鉱山で採掘しマレーシアで分離精製した、初の「非中国製重希土類」の日本への輸入を実現しました。
  • 新規鉱山開発と取扱品目の拡大さらに2026313日、双日とライナス社は、ベトナムやマレーシアをはじめとする東南アジア等での新規鉱山共同開発に向けた調査・検討に合意しました。この合意により、従来のジスプロシウムとテルビウムに加え、新たにサマリウムSm)、イットリウムY)、ルテチウムLu)、ガドリニウムGd)の4品目を追加。これら6品目におけるライナス社の総生産量の最大75%が、優先的に日本市場に割り当てられる計画です。

企業別レアアース調達プロジェクトの比較

住友金属鉱山と双日が展開する戦略は、アプローチやターゲットとする元素にそれぞれの強みがあります。

企業名主な対象元素原料ソース生産・プロセスフロー主な下流用途戦略的位置づけ・目標
住友金属鉱山スカンジウム(Scフィリピン(ニッケルHPAL製錬の副産物)①現地HPALで中間品回収
②国内で酸化スカンジウムへ精製
固体酸化物形燃料電池(SOFC)、アルミ添加剤「非鉱山型」の低コスト供給網を確立、能力を2割増強
双日重・中希土類(DyTbSmYGdLu豪州およびベトナム、マレーシア等の新規候補地①豪州等で採掘・濃縮
②マレーシア等で分離精製
EV用モーター、ロボット用高耐熱永久磁石などJOGMEC協調スキーム(JARE)による権益確保、調達の多角化

東南アジア調達網に潜むガバナンスとESGリスク

中国依存からの脱却を進める東南アジアシフトですが、現地特有のソブリンリスクや環境対応といったESG(環境・社会・ガバナンス)の壁も存在します。

ベトナム:制度の脆弱性と大規模な汚職・違法密輸事件

ベトナムは世界有数のレアアース埋蔵量を誇り、日本の外交・経済安保上の重要拠点です。しかし、鉱山開発プロセスにおけるガバナンスの不透明さが課題となっています。

西北部イエンバイ省のイエンフー(Yen Phu)希土類鉱山を巡っては、現地開発企業の会長らが資源環境省の元幹部らと結託し、不適切な開発許可を取得。2019年から2023年にかけて計11000トン以上のレアアースを違法に採掘し、中国へ密輸していた大規模汚職・密輸事件が摘発されました。被告27名に及ぶこの事件は、進出を図る日本企業にとって深刻なコンプライアンスリスクの存在を物語っています。

マレーシア:放射性廃棄物管理と環境ナショナリズムの台頭

ライナス社が操業するマレーシアの精錬プラントでは、処理工程で発生する低レベル放射性廃棄物(WLP)の処理を巡り、現地住民や環境活動家、政治家との摩擦が長期化しています。

マレーシア政府は操業ライセンスを20263月まで延長したものの、依然として廃棄物の国外移転や管理に対する風当たりは強い状況です。また、マレーシア政府は国内のバリューチェーン保護を目的として、すべてのレアアース原鉱石の輸出を禁止し、製品化されたもののみ輸出を許可する保護主義的な方針を打ち出しており、原料輸送の柔軟性を欠く要因となっています。

フィリピン:現地コミュニティや環境NGOとの対立

住友鉱の製錬事業が位置するフィリピン(パラワン州・ミンダナオ州)でも、ニッケル採掘や湿式精錬(HPAL)に伴う水質汚染懸念、先住民族コミュニティへの影響拡大を訴える国際環境NGOや住民組織が存在します。企業の社会的信用(ソーシャル・ライセンス・トゥ・オペレート)を維持するためには、極めて厳格な環境モニタリングと地域貢献策の継続が必須です。

代替技術と国内リサイクルによる重層的な補強策

東南アジアでの調達多角化を進める一方で、万が一の供給途絶に備えた「日本国内での守り」を固めることも極めて重要です。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)主導のもと、省資源化とリサイクルの技術開発が並行して進められています。

省レアアース・代替素材の社会実装

ハイブリッド車用の永久磁石には、耐熱性を維持するためにジスプロシウムやテルビウムが必要とされてきましたが、これらは最も調達が困難な重希土類です。

特殊鋼大手のダイドー電子などは、重希土類を一切使用しない「重希土類フリー」の熱間加工ネオジム磁石の開発に成功し、すでにホンダの「フリード」などの市販車に搭載されています。こうした代替技術の普及は、物理的な原料調達難に対する強力な防壁となっています。

国内リサイクル(都市鉱山)の可能性とコストの壁

使用済みの家電製品(エアコンやハイブリッド車のモーターなど)からネオジム磁石を回収し、再び磁石原料として製品へ戻す「クローズドループ・リサイクル」の構築も進んでいます。信越化学工業などが福井県の武生工場をハブに技術実用化を行っています。

しかし、商業的な本格化には大きなボトルネックがあります。

使用済み製品から磁石を取り出す「解体工程」は非常に労働集約的であり、解体コストが回収されるレアアースの市価を上回ってしまうケースが多いためです。また、価格の乱高下(ボラティリティ)も投資の予測を困難にしています。今後、「再生材の最低含有義務(クォータ制度)」や確実な回収インフラが法制化されない限り、二次資源(リサイクル)は主要な供給源というよりも、あくまで補完的な役割にとどまる可能性が高いと考えられます。

結論とこれからのサプライチェーン戦略

日本企業が推進する「脱中国レアアース調達網」は、中国による輸出規制強化という直接的な地政学的リスクに対する、自衛的かつ合理的な対抗策です。

住友金属鉱山がフィリピンで進める「ニッケル副産物からのスカンジウム回収」や、双日・ライナス連合による「東南アジア諸国での共同開発とマレーシア製錬所の活用」は、技術力とグローバルなネットワークを組み合わせた日本ならではの強固なサプライチェーンモデルと言えます。

しかし、調達先を東南アジアへと広げるにつれ、ベトナムでの汚職事件やマレーシアでの放射性廃棄物問題に代表される「ガバナンスおよび環境マネジメントリスク」への感応度は高まります。日本企業および政府は、JOGMECなどの金融スキームを最大限に活用しつつ、進出先国との関係構築、環境対策の徹底、さらには国内における代替技術開発を組み合わせた、「重層的な資源安保戦略」を推進していくことが求められます。

-経済
-, , , , , , , , , , ,